ミケです。

ユカリと店の外で会うようになって驚いたことがある。
ユカリが酒呑みだったことだ。
ホテルに行く前に食事をするのだが、ユカリが頼むのはビールとかサワーを一杯だけだ。
私は食べながら呑む方なので、ユカリは私の頼んだ物をつまむのが常だった。
そんなもので足りるのか不思議であったが、別の機会で納得できた。
別れたあと、どこへ行くのか聞いたときだ。
「キャハハハ、新宿~」
新宿なんか行って何するの?
「呑むんだよ~」
私が顔色を変え、ナンパやホストの心配をすると
「大丈夫大丈夫!ゲイバーだから。安いし、変に絡んで来ないから。」
ゲイバー・・・
「楽しいよ?一緒に行く?」
誘われたが、大抵が23時近かったし、無駄遣いするお金もなかったので断った。
荒れた生活だった。
以前聞いた話と合わせると哀れで涙さえ出てくる。
義務教育を終えないうちから売春紛いの経験を重ね、札幌でスカウトされて吉原へ。
吉原での最初の目標は2,000万円貯めることで、それは意外とすぐに達成されたという。
しかし、計画がなかったからすぐになくなってしまったとも言っていた。
そこから貯める意欲も湧かなくなったユカリの生活が、あればあるだけ使うものになっていったことは想像に難くない。
昼間は吉原の待機室と個室の往復。
他のお嬢さんからも聞いたが、あれは精神的に参ってしまう、と。
待機室は嬢たちライバル同士が集まる部屋でもあるから、殺伐とした空気で支配されることもあろう。
嬢も様々な思いで来ているから、みんなで仲良く、なんて嬢全員が思っているわけがないのだ。
スタッフには売れるために媚を売るが、嬢に媚を売ってなんになる、という考え方もあろう。
お局様がいれば気も遣うし、気に入られなければイジメの対象になる。
そんなところでお茶を挽くことになろうものなら、間違いなく病むはずだ。
部屋持ちになるには売れなければならない。
待機するにも静かなバトルが続いているのだ。
接客にしても、当然嫌な客はいる。
話しかけても何の反応もない客。
こういう客が一番堪えるそうだ。
そんな客がいるのかと驚いた。
何を考えているのか・・・
正に針の筵に座っている心境だろう。
それが2時間続くのだ。
どんなSEXもコミュニケーションの末にあるものだと信じている。
それが出来ない客は、フーゾクで満足のいくサービスは受けられないであろう。
そして、あのウィークリーマンションに住み着いたのはいつからだろうか。
寝ることしかできない狭い部屋。
あんなところに帰ってきても気が休まるはずもなかった。
昼間に味わった嫌なことを忘れさせる、パァーっと騒げる場所が必要になるのは自然な流れだろう。
ユカリの場合それが酒であり、新宿だった。
