ユカリ(10)

ミケです。

月1ペースでユカリと会っていたあの頃、とても幸せだった。

会社で叱られ、上司やお局様にアホボケカスと呼ばれても、

ゆかりちゃんがいる!

ということが救いになった。

たとえ今日会えなくても、この日に会える、もうちょっとで会える、と思うことで嫌なことが忘れられた。

毎回似たような展開でも構わなかった。

だが、いつしかネットで見つけた

「店外デート」

という言葉に憧れ始めていた。

それを口にできたのはユカリと知り合って4年が経過していた。

「う~ん・・・」

最初は渋っていたが、どちらが提案したか覚えていないが、10万円出すなら・・・という話でまとまった。

当時、いや今でも10万円は大金だ。

その10万円を払って店外デートに誘うことができた。

もう録に覚えていないが、会社が終わってから会って食事をし、ホテルに泊まるという予定だった。

しかも金曜日。

フーゾクで働いている子にとっては書き入れ時のはずだ。

今冷静に考えれば無茶を言ったなと思う。

上野で・・何を食べたか忘れたが、刺身とかすき焼きとか、和食だったような気がする。

そのあと、鶯谷へ向かう。

ラブホテルなど一回も入ったことがなかった。

甘くみていた。

ホテルなどどこも一緒だと思っていた。

ましてや鶯谷である。

どこに入っても一定の水準以上の施設であろうと、たかを括っていた。

最悪のホテルを選んでしまった。

名前もどう行ったかも覚えてはいない。

ホテル、というより旅館である。

カラオケやアメニティグッズもなく、テレビと赤いダブルベッドだけが置いてある部屋だった。

浴槽もオシャレなバスタブとは程遠く、昭和のレトロなタイル張りのそれだった。

それを見たユカリが絶望したのは想像に難くなかった。

シャワーも出が悪く、浴槽の蛇口から洗面器で流した記憶がある。

そんなホテルでもやることはやった。

1回だけだったのか2回やったのか、正直覚えていない。

多分私のことだから、2回やったのだろう。

そうして休憩していると、ユカリが帰りたいと言い出した。

契約違反である。

まぁ厳密には公序良俗の原則から契約無効なのだが。

「だってもう寝るだけじゃん」

え・・一緒に寝てよ

「私、歯ぎしりうるさいしさ、人と一緒に寝れないから、やっぱ無理」

そういうと、私の返事を待たずに帰る支度を始めるユカリ。

お金は先に渡してあった。

こうなると彼女を止めることは不可能だった。

じゃ送ってくよ。こんなところに私も用はないし

「着いてこないで!」

ユカリの口調はキツかった。

「あなたはここで一晩過ごして」

一転して優しい口調に戻る。

なにも言えずにいると、支度を整えた彼女は

「じゃ!ありがと」

と言ってドアを出ていった。

10万円は高かった。

なにもする気が起きず、ただ独り寝た。

翌朝、休日というのに早く起きてしまい、やることもなくホテルを出て鶯谷駅に向かった。

何をやっているんだ。

ホームに出ると眩しい光が私を嘲笑う。

今日は何をしよう・・・

まずは帰ってもう一度寝よう・・・

早朝の横浜までの電車は空いていた。

自分の部屋の最寄り駅に降りて、すぐ近くの松屋に寄った。

食券を買って、カウンターに指先で弾き、イスに座る。

自動ドアが開き、誰かが入ってくる。

見ると知った男だ。

正に

“こんなところでなにを?!”

である。

彼にはいつも東京で祭りの時に世話になっている。

「おっ?!ミケちゃん?」

おはようございます。どうしたんですか?

「仕事だよ。ここに住んでるんだっけ?」

そうですよ。こんなに早く大変ですね。

「ミケちゃんも朝帰りかい?やるねぇ」

そういえばスーツのままだ。

彼の登場で気持ちが和らぎ、ちょっと誇らしく思った。

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投稿者: mikenojo

♂貧乏サラリーマン。 身体障がい者。

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