ミケです。

嬉しくもあり悲しくもあり、断るべきか受け入れるか、頭がグチャグチャになった。
「早く・・・しないの?」
下着姿のユカリが問う。
派手な幾何学模様の下着。
学生だったら『かわいい』で通るが、一目で安物だろうとわかった。
スイッチが入った。
スーツを脱ぎ捨て、下着も抜いで横になったユカリに股がった。
キスをする。
いつも通りの濃厚な口づけに満足した。
口を離すとユカリが起き上がり、私が仰向けになった。
いきなり分身を頬張った。
朝から夕方までスラックスの下で蒸らされ、シャワーも浴びずに行為に及んだ分身は相当臭いはずだった。
それでもユカリは嫌な顔もせず、咥えてくれている。
こんな臭いものを大好きな女性に咥えさせている。
罪悪感もあったが、受け入れてくれているユカリを愛おしく感じた。
勃ったところで上下入れ替わる。
首にキスをしつつ、胸を愛撫する。
そこでユカリが
「時間がないからそういうのなしで・・・」
と、出会ってから初めて拒んだ。
渋々ユカリの膝を開き、顔を近付ける。
今度はなにも言わない。
溝を舐め上げ、大きくなった突起物にキスをする。
「・・あッ」
ユカリの太ももが揺れる。
顔を埋めてから程なくして
「もう濡れてきたから・・入れて」
と言ってきた。
でも・・・
「いいからもう入れて・・」
まだ女性に対して断ったり、強引に迫るということができなかった頃だ。
仕方なく起き上がり、ゆっくりと挿入した。
上体を起こしたまま腰を動かす。
その動きに合わせてユカリの吐息が洩れる。
いつもより早く絶頂感が訪れる。
体を合わせ、唇を重ねる。
限界だった。
あまりにも呆気なく終わってしまった。
お金をあげればもう1回できないか?
そんな卑しい考えが浮かんでもきたが。
ユカリは狭いラブホテルの一室で、朝から夕方までじっとしていなければならなかったのだ。
若い女性にとっては耐え難いことだろう。
今のようなコロナ禍における隔離施設ではない。
おそらく腹にも何も入れていないのだろう。
もっと気遣ってやるべきだった。
そもそも、ソープ嬢が好きでもない男に助けを求め、無償でやらせるということは何事にも耐え難い屈辱だろう。
ユカリに急かされ、ホテルを出た私達は銀座線で上野まで出て、取り敢えず食事をした。
どうして私?
他にも沢山太客はいそうなのに、なんで私を呼び出したのか確かめたかった。
「もうオヤジに抱かれたくなかった」
心にナイフが刺さる。
以前からこういうことを繰り返してきたのか・・・
しかもオヤジと・・・
「それに・・・」
一旦言葉が途切れた。
「金持ってる奴は付いて1年ぐらいで離れていっちゃう。」
そうかもしれない。
1年経って何もなかったら次の女性に移るのが効率的に思う。
「ミケさんみたいに細いけどずっと来てくれるお客さんが大事なんだってわかった」
なんだかむず痒く思えたが、正直嬉しかった。
上野駅から銀座線で帰るとユカリがいうので、銀座線の改札口まで送っていった。
2千円もあれば明日の出勤までは耐えられるだろうと、別れ際に渡した。
ありがとう、とユカリはホームへと歩き出したが、歩を止め引き返してきた。
「1万円貸してくんない?」
え?そんなに持ってないよ。
「じゃあ貸せるだけ貸して?」
食事をしたところで1万円を出して、財布にはそこで渡されたお釣の千円札6枚と小銭しか残ってなかった。
既に2千円渡しているから残りは4千円だ。
これしかないよ。
と残りの札を出すと
「うん。いいよ。ありがとう」
と言って改札の柵越しに軽いキスをしてきた。
私は彼女が見えなくなるまで改札の外で見送っていた。
