ユカリ(最終回)

あれからユカリと会う頻度が多くなっていった。

1週間が5日、5日が3日、3日が2日・・・

毎日会うようになるまで1ヶ月もかからなかった。

それもタダではない。

ユカリへの小遣い、食事代、ホテル代・・会う度に2万円ずつ吸い取られていくのだ。

小遣いも時には5千円で手を打ったこともあったが、会って帰りにはあと5千円!とせびられた。

もう私しかいないのだ、と思い、あげ続けた。

まだ入社2~3年の若造である。

先が見えていた。

ある日ユカリが寒空の下、奇妙な出立ちで現れた。

ダウン、ワンピース、生足に・・スリッパ。

○○病院と書かれてあるスリッパだ。

内心、ここまで堕ちたかと思った。

クリスマス間近だったので

靴を買ってやろうか?

と聞くと二つ返事で喜んだ。

ABABで1万強の、その年流行した毛でモコモコしたブーツだ。

電車に乗るときまで、嬉しそうに履いたブーツを見ている。

私もユカリが喜んでいるのを見れば嬉しかったが、流石に人前では恥ずかしかった。

たかがブーツである。

今から思えば、スリッパはフェイクだったのかもしれない。

ユカリは相手から善意を引き出すのにこの手の小細工をよく使った。

翌週には底の平なパンプスを履いていた。

どうしたか聞くと

「暑いから捨てた」

そうだ。

怒る気にもならなかった。

あげたものなのだから、自由にしてもらって構わない。

ただ、買ってもらった相手に正直に話すメンタルが残念だった。

年も越し、しばらくは会っていた。

が、蓄えも収入も十分でない勤め人に毎日2万円もの負担は重すぎた。

ある日、掛かってきた電話に

もうお金ないよ

と答えた。

すると

「5千円でもいいから!」

私は1回ため息をつき、

チッ、しょうがないな

と言ってしまった。

「今、舌打ちしたね?それならもういいよ。ごめん。他頼るから」

と言い残し電話を切られた。

ちょっと待ってって

急いでかけ直し、機嫌を直してもらおうと思った。

「なに?出してくれるの?」

またタカられる!と一瞬怯んでしまった。

その一瞬が命取りとなった。

「ほら、もういいんだって」

一方的に切られた。

もう掛ける言葉もなく、一方でホッとしていた・・・

それが最後となった。

財政を建て直した頃、またユカリのいた店に通い出した。

もうユカリの写真はない。

付いた子に

「このお店は初めてですか?」

と聞かれたので

前までユカリって子がいたと思うんだけど・・・

というと

「あぁあの子ね・・・」

え?知り合い?

「ここにいたんだから」

と笑って

「この前新宿の道端で寝てたって・・・」

そうか・・・

としか言えなかった。

また数ヶ月後、送迎車のドライバーが携帯で

「あぁユカリな、○○○○○で働いてるらしいな。こないだ挨拶されてビックリしたわ」

と言っているのが漏れ聞こえた。

20余年経った今は何をやっているのだろう。

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投稿者: mikenojo

♂貧乏サラリーマン。 身体障がい者。